『レット・イット・ゴー』にかけられた『ありのままで』の呪縛を解く方法


ディズニー『アナと雪の女王』で使われた名曲『レット・イット・ゴー ~ありのままで~』を英語学習のために覚えようとしている人は多いと思います。しかし英語の歌詞を読むと日本語バージョンとの違いに驚くのではないでしょうか?

はじめて歌詞を読むと『英語の意味はわかったけど、なんの話をしているのかわからない・・・』と途方に暮れてしまうかもしれません。

プロでも解釈に困惑した『レット・イット・ゴー』

長年ディズニー音楽を研究している谷口 昭弘さんの書籍『ディズニー・ミュージック ディズニー映画 音楽の秘密』を読むと、音楽関係者の間でも『レット・イット・ゴー』の解釈に困惑している様子がうかがえます。なので英語学習者が途方に暮れてしまうのは仕方がない事なのです。


ディズニー・ミュージック ディズニー映画 音楽の秘密
出版社: スタイルノート
著者: 谷口 昭弘

日本語バージョンは英訳ではない

世間で『レット・イット・ゴー ~ありのままで~』が大絶賛される一方、「日本語の歌詞と映像表現が違うのではないか?」と疑問に思った人は多いと思います。実は日本語バージョンは英訳ではありません。『ありのままで』なんてエルサは言ってないし、ハッキリ言ってしまえばストーリーと日本語の歌詞は関係がありません(笑)。

よく考えられたマーケティング

日本映画では昔から洋画に対して日本向けのタイトルをつける風習があります。ひどいタイトルもありますが、よく考えられたタイトルをつけ、映画が大ヒットすることもあります。

このような風習から日本のディズニー映画もアメリカの原題とは常に違うタイトルがつけられています。なので『レット・イット・ゴー』の歌詞が変えられているのも、この風習によるものだと思われます。

サウンドトラックを変えるケースも・・・

ちなみに日本のディズニー映画では、歌詞が変わってしまうだけならいい方です。近年は映画とは全く関係ない邦楽がサウンドトラックとしてつけられていることもあります(笑)。

映画は期間限定で公開されるものですから、失敗は許されない一発勝負です。だからこそ日本向けにアレンジされる必要があるのでしょう。

日本語吹替えの需要拡大

ここまで混乱してしまった原因は日本語吹替えの需要が拡大したことによります。現在ディズニー映画を字幕版で見ることのできる映画館は東京でも数館あればいい方です。地方の映画館では、字幕版は全く見れない状況だと思います。

映画を初めて見た時の印象は簡単に取り消すことができません。ましてや松たか子さんの歌う『レット・イット・ゴー ~ありのままで~』の歌詞は非常に良くて来ています。なので初めて英語の歌詞を読んで困惑するのは当然でなのです。

本来のシーンとは意味が違ってしまった

英語の歌詞を直訳すればわかるように、エルサが『レット・イット・ゴー』を歌うシーンは、エルサのネガティブな心境を歌にして語っています。そもそもエルサは『引きこもり』として育てられてきましたから、このシーンで『完全なる引きこもり』を宣言しているのです

このシーンが重要なのはエルサが世間と断絶したことにより、他人のことはどうでもよい人間になろうとしている事です。だからこアナを追い払うのにモンスター(マシュマロウ)を使ったり、無意識の状態でアレンデール王国を冬にしてしまったことに対して最初は責任を取らないのです。

歌詞と映像表現の一致

英語の歌詞を頭に入れてもう一度『レット・イット・ゴー』のミュージックビデオを確認してみると、歌詞と映像表現が一致していることがわかると思います。

エルサは深い谷を渡り、世間と断絶する瞬間に”Let it go.”と言います。また歌の最後には”The cold never bothered me anyway.”と言い放って、お城の扉を閉めるのです。乱暴に訳すならば「他人に冷たくされても、(世間とは絶縁したから)そんなの関係ねえー!」となるでしょう・・・ただしこのように訳すと、最後に「オッパッピー」と言いたくなってしまいます(笑)。

Idina Menzel – Let It Go (from “Frozen”) (Sing-Along Version)

スター・ウォーズに置き換えて考える

今さら真実知っても、映像で植え付けれられてしまった印象はなかなか変えることができません。そこでエルサをスター・ウォーズのダース・ベイダーに置き換えて考えるショック療法をおすすめします(笑)。

エルサは兵隊を殺す寸前で我に返りますが、この一線を超えて『レット・イット・ゴー』してしまったのがスター・ウォーズのダース・ベイダーです。下記の動画では『レット・イット・ゴー』の音楽に合わせてダース・ベイダーの心境を語っています。本来『レット・イット・ゴー』が持っていたシーンの危うさがどんなに深刻な問題だったのか理解できると思います(笑)。

Star Wars Disney – Let it Flow – Let it Go Frozen Parody

現在のディズニーは過去とは違う

エルサをダース・ベーダーに置き換えると、かなり深いストーリーだと気がつくと思います。ジョン・ラセターさんがディズニーのチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任してからのディズニーアニメは、ストーリーやキャラクター設定が深く、社会的なテーマについて考えさせるように作られています。例えば映画『ズートピア』では、最初から最後まで差別や偏見をテーマにしたシーンで構成されています。

日本のマインドセット

日本では独自のアニメ文化によるマインドセットが浸透していること、東京ディズニーランド神話が浸透していることなどから、現在のディズニー作品を受け入れられる土壌になっていません。だからこそ日本のディズニーはポジティブな『あるがままで』を作ったのでしょう。もちろん『あるがままで』の完成度は高く、マーケティング的にも大成功だったので正しい判断だったと言えます。

しかし、この日本のマインドセットは『レット・イット・ゴー』していい事なのか気になるところです(笑)。

『アナと雪の女王』の書籍


Frozen Read-Along Storybook and CD(英語)
出版社: Disney Press


ジ・アート・オブ・アナと雪の女王
出版社: ボーンデジタル
著者: チャールズ・ソロモン


ディズニー・ミュージック ディズニー映画 音楽の秘密
出版社: スタイルノート
著者: 谷口 昭弘